コードノート

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ビットコイン・ブロックチェーン本を10冊ぐらい読んで付け焼き刃の知識を身につけたまとめ

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こんにちは。お仕事一案件分ぐらいのお金でビットコインを買っていて、そのまま塩づけている僕です。

昨今では「ビットコインはもうダメ。俺は値下がりするのわかっていたから、そこそこ利益得てとっくに手放したよ。」みたいな後出し発言がNewsPicksのおじさんコメント欄にも増えてきました。

それに倣うのもダサいなと思ったので、保有してまだ興味が強いうちにちゃんと勉強しておくかと思い、アマゾンで上から順にポチポチと本を買ってみました。Kindle本も含め2万円超えていた気がする。

まとめて2,3日で斜め読みして、ほぼ知らない人から、あまり知らない人にグレードアップしたので、そのまとめをしていこうと思います。

これからまたビットコインは値上がりするの?

知りません✌️

この記事書いている時(2018年11~12月)にゴリゴリ下がってて笑ってます。

よく知らないけれど、あんなに価値が爆上がり爆下がりするものは通貨として安定して使えない以上、価値が安定するように開発側は設計を変えていくと考えるのが自然です。それでも、再度価値が爆上がりすると期待するのはその意向と反しているのでは?とも思います。

とはいえ価値が上がらないと、マイニングする人が安定して参加しないので、マイニングする電気代よりは価値が高くて、金や銀ぐらいの年利が期待できるなら、銀行にお金預けるよりマイニングするっしょ、ぐらいに落ち着くものにデザインしたほうが良いんじゃないのって印象です。

どんな理念の元にビットコインは生まれたのか

99.9%の人が一番気になる大事な話は無事終わったところで、あとは自由に書いていきましょう。

国内で語られるビットコインの話というと、儲かるのかが9.5割、利便性があるのかが0.5割ぐらいで、買う前からこの話題のなり方はちょっとつまらないな、と思っていました。

「ビットコイン投資で億り人だ!」か「ベンチャーでフィンテックでIPOだ!」のどちらかってことですね。

そんな発想からビットコインが生まれるはずもないことだけは、調べなくてもわかります。ではどんな理念の元にビットコインは生まれたのでしょうか?

それを知ることが出来るのが、『デジタル・ゴールド』です。

デジタル・ゴールド──ビットコイン、その知られざる物語

デジタル・ゴールド──ビットコイン、その知られざる物語

ビットコインが生まれる2008年から、社会的認知を得る2013年までの話(実はもうビットコイン10周年)を、まるで映画のように描いてくれている書籍です。

ビットコインの仕組みを一般人が知る必要があるのか問題

実は「ビットコイン入門」みたいな本では、その生い立ちを一切省いているか、せいぜい1ページ書いているだけでまったく知ることができません。なのでその辺りが知りたい人は、この本を読みましょう。

入門書の「ビットコインの仕組みをわかりやすく説明します!」って話を僕らが読む意味って、それほどないのですよね。

インターネットが普及する前に「インターネットはどんな仕組みで動いているのでしょうか?」を読むようなものです。

一般市民からすれば、そんなの知らないけどケーブルを刺せばインターネットが使えるねって話でしかありません。

もちろん概略の把握は必要ですが、技術の話を技術用語を省いて現実の例え話を用いて説明しようとする入門書は、あまり意味がない印象があります。

ビットコインの理念とは何か?

では本題の、ビットコインの背景にある思想についてです。

本書を読む前の僕の予想では、

「暗号技術ギークがブロックチェーンという仕組みの社会実験のためにまずはお金の領域で試そう!とした」
or
「技術のあるリバタリアンが国や金融業界に支配されたお金の仕組みをぶち壊せ!とした」

のどちらかかな?と、うっすら思っていました。(リバタリアン雑にまとめると、反権力的な個人自由主義者)

そしたら、わりと後者の要素が強いじゃん、というのが、作中で紹介された、最初期のビットコインに関するQ&Aの中にあった質問の一つ「ビットコインを使うべき理由は何ですか?」への回答から伺えます。

独裁的な中央銀行の不公正な通貨政策をはじめ、通貨供給を中央集権的権力に握られることから生じるさまざまなリスクから身を守ろう。

ビットコインの通貨供給の拡大には制限がかかっており、しかも金融エリートに独占されることなく、(CPUの性能に応じて)ネットワーク中に均等に分配される。

めちゃめちゃ痛烈に、中央銀行や金融業界の批判をしています。リーマンショックを経た直後ってのも影響しているんだとは思いますけども。YouTubeで人気の都市伝説チャンネル「アシタノワダイ」をめちゃめちゃ信じてる人かな?って日本ならなりますね。

Facebook辺りでこんなことを書いていたら、一発でヤベー奴判定されて「普段は良い人なんだけどね…(苦笑)」と影で言われながらそっとフォローを外されると思うのですが、そんな通貨を我先にと買っていたのは面白い話です。

他にも、作中で「ビットコインっていう、本当にいかしたものがあるんだ。いかにもオタクのリバタリアンが考えそうなアイデアさ」というセリフも出てきて、これは最初期のビットコインを的確に表現した言葉かと思います。

こんな話をすると「怖い」と反応する人も多い気がしますが、テクノロジーには業界に大して破壊あるいは再編を促して、再構築させる力があるのはたしかです。

インターネットというテクノロジーも、メディア業界の支配的な体制を壊したと言うことができますからね。

ブロックチェーンは、近年達成できなかった様々な社会的問題に対して、新しいシステムを組み込むことで(既存の体制を崩してでも)解決を目指すテクノロジーである、と思うと個人的には応援できます。

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『デジタル・ゴールド』印象的なその他ポイント

本書では、他にも印象的な話が数多くあるのですが、多すぎて話がまとまらないのでざっくりといくつか要点だけ紹介を。

■世界最初のビットコイン取引所「Mt.Gox」は、元々マジック・ザ・ギャザリングオンライン(世界を始め、日本でも人気のカードゲーム)取引サービス、「Magic The Gathering Online eXchange」のドメイン使いまわし。

ビットコインの初期の頃は、たびたびマジック・ザ・ギャザリング好きの登場人物が出てきます。

日本にもプレイヤーが多いカードゲームですが、遊戯王やポケモンカードゲームよりもルールの凝った、頭脳ゲーム好きのオタクがやるものだと理解してもらって大きなズレはないと思います。(僕も大好きなゲームなので許して)

アメリカでITというと、シリコンバレーの超絶リア充エリートが多いイメージもありますが、そんな人達が最初に盛り上げていたものではないんだよ(むしろ流行るまで無視していた)、というのが分かるし、ある意味で遊びの延長あったことがわかるエピソードです。

最近では、このままではブロックチェーンはギークの遊び道具にされて終わってしまう、といった批判もあったりしますが、遊びのように熱中することで価値を生んでいる世界だしなぁと思うところです。

■ビットコイン取引を盛んにした闇市場「シルクロード」の最初の商品はマジックマッシュルーム

ビットコインってマネーロンダリングや麻薬取引に使われるんでしょ?という、金融業界のネガティブマーケティングの効果は今もなお残りますが、そういった事実はたしかにあります。

実際に本書でも、ビットコイン黎明期に「シルクロード」というダークウェブ版アマゾンでの決済手段として初めてビットコインを導入した話が、かなり詳しく描写されています。

ダークウェブで麻薬売買だ!というと、僕らの感覚でいうとめちゃめちゃ犯罪組織的な気配ですが、読んでいた印象では、日本でいうDVDやインターネットはエロで普及した!という話と近しい話だったのだなと思われます。

当然、エロと比べたらガチガチの犯罪なので、2013年にシルクロードの管理人はFBIに逮捕されサイトは閉鎖されます。その後管理人はたしか終身刑に。

管理人が、図書館でFBI捜査官に取り囲まれる逮捕劇の話は、これ映画で見るシーンだ!となる熱いシーンです。

■ビットコインとシリコンバレー

最近でこそ、Apple Pay・Google Payなどを始め、国内だとPayPayといったお金に関するサービスがIT業界で話題になりますが、ビットコイン以前そういったサービスは(裏で開発は進めていたにせよ)なりを潜めていました。

本書では、その理由としてPayPalが2001年頃、多く政治家達にマネーロンダリングなどを理由に妨害され続けた歴史を挙げています。(本当に利権のための妨害なのか、消費者保護・犯罪防止のための必要な規制なのかは知らない。)

しかし、ビットコインの盛り上がりを見て、シリコンバレー界隈も2013年前後から絡んでいくことになります。

当初は懐疑的な目線が当然多かったようですが、何人かがビットコインに注目し、それを広めていきました。

その主要な人物の一人である、起業家ウェンセス・カサレスはアルゼンチン出身で、あのアルゼンチンペソのハイパーインフレに苦しんだ幼少期の体験から、ビットコインの魅力に取り付かれたようです。

彼の幼少期の恐れの体験しかり、リバタリアンが持つ権威への反骨心であったり、所々で負の感情が強い原動力になる話が、黎明期の話には見られます。

その負から反転した熱が、シリコンバレーにも届き、PayPalの元代表デービッドマーカスやアメリカの大手VCといった重要人物に届いていくことになります。

ちょっと話はズレますが、ウェンセス・カサレスが最初にビットコインの安全性を調べるために、知り合いの凄腕ハッカー2人に依頼して、全力でハッキングが可能か試してもらった話はなんだか笑いました。「知り合いの凄腕ハッカーに依頼した😎」って一生のうちに一度は言ってみたい。

■ビットコインとウォール街

先ほどのPayPalの話も含め、基本的に金融業界はIT業界が自分達の世界に乗り込んでくることを嫌っているように見えます。

それはIT界隈のセキュリティ的な弱さであるとか法令遵守の甘さなどに起因するのでしょうけど、利権を守るためという理由も多少なりあるのかもしれません。

しかし、そんな彼らがビットコインやその根幹技術であるブロックチェーンに魅力を感じるのはなぜなのでしょうか。

本書はあくまでテック業界の目線でビットコインについて語られるため、その心の内はわかりませんが、終わりの方で、2014年ゴールドマンサックスが直接ビットコイン売買はしないが、研究・活用し、銀行サービスを根本的に見直せないか検討するとカンファレンスで発言したエピソードも収録されています。

(その後、たしか2018年になって、ゴールドマンサックスもビットコイン売買する表明を出している。)

金融業界の基本的な姿勢は、ビットコインは通貨として成り立っていないが、ブロックチェーン技術には可能性がある、というものでそれはこの頃に確立されたのでしょう。

でもそんな彼らも2013年頃まで、ビットコインは麻薬売買だマネーロンダリングに使われるだとボコボコにしていたのに急になぜ認めた…?という気持ちが残ります。

シリコンバレーの人達同様、最初はただ疑っていたけれど、世の中の熱に動かされ、いざ調べてみたら、たしかに技術的な有用性があった、というのが無難な見解です。ただ、それに至る道筋には不思議なタイミングの重なりを感じます。

単純にリーマンショックという金融危機の振り返りを経て、この業界も新しい技術を求めていたところに偶然ハマっただけということもできますけどね。

それにしたってリーマンショックが起きたのが2008年9月で、ビットコインの論文が発表されたのがその直後2008年10月というのは、リーマンショックをきっかけに論文にまとめたにしても、狙ったようなタイミングで構想を膨らませていたのだなぁと思います。

coincheck.blog

■良いお言葉シリーズ

リバタリアンやオタク、あるいはダークウェブのための通貨として当初目立つことが多かったビットコインは、その後にシリコンバレー、ウォール街と違った世界の人たちをも取り込んでいきました。

その流れに対して、本書中では数多くの人のメッセージが引用されますが、ここでもその一部を紹介します。

アメリカの技術情報メディア『ビジネスインサイダー』の引用

ビットコイン最大の魅力は、狂信的な陰謀論者から、明敏な現実主義者、筋金入りの懐疑論者まで、あらゆる人を夢中にさせる力を秘めているところだ。

投資家ジェレミー・リューの引用

結局のところ、過激なリバタリアンの市場はそれほど大きくなかった。取引コストが無料あるいは劇的に低く、追加機能をプログラミング可能な通貨となれば、市場規模は世界中全員である。

アンドリーセン(Netscape開発者)の引用

ビットコインはリバタリアンのおとぎ話でも、シリコンバレーお得意の過大広告でもない。インターネット時代の金融システムはどのように機能しうるか。機能すべきか。ゼロから見直す様々な機会を与えてくれる。

しかも、より有効的な、個人にとっても企業にとっても有効なシステムを構築するための触媒となる。

さすがインターネット黎明期にブラウザのシェア9割を握ったネットスケープを作った人のお言葉は一段と輝きます。

ビットコインは正体不明の人物によって突如作られた、とメディア的には報じられることが多いかもしれません。

でも技術的な目線で言えば、その根幹技術は世界中何千もの研究者達により40年近くの積み上げられてきた暗号学の成果です。その技術を活用した暗号通貨への取り組みも、たしか20年前にはビットコインとは別の形で始まっていたと記憶しています。

そういったR&Dの成果が、多くの人の熱量であるとか時代性と偶然にも噛み合ったのが今現在です。まだまだ引き続き、研究開発は必要ですけども。

そんなあくまでこれからの技術に対して、「もう投資対象してダメだからオワコン」みたいな言い方は一面的だなぁと思うものです。

もちろん保有している一個人としては、値上がりするのかどうかは大事な話ですけどね。笑

■2013年頃、海外のビットコインに対する反応は「面白い」or「馬鹿げている」のどちらの中、日本では「怖い」

世界最初のビットコイン取引所Mt.Goxも拠点が東京に置かれていたりと、本書の話に日本人は登場しないけれど、たびたび日本が舞台になります。

その中で、日本の一般女性にビットコインについてさらっと説明をするシーンが出てくるのですが、その時の反応が「なにそれ、よくわからない。怖い。」といったものでした。

人工知能の話も近いのかもしれませんが、この「怖い」って反応は何に根付いているのだろうか、というはここ数年たびたび考えます。

生物的に未知のものに恐怖心を覚えるのは正しい気もしつつ、怖いという反応は日本でしか聞かない、という話をされると本能的なものとはまた違った要因があるようにも思います。

しかも怖いと言っていた数年後に儲かるという話を聞いたら、街中たくさんの人がビットコインの話をしているという。怖かったんじゃないのか(笑) 技術的によくわからないってベースは変わっていないでしょうしね。

この思考はいくつかの要因が重なった結果でしょうけれど、最近思うのはテクノロジーに対する多くの日本人の「怖い」は、それだけ日本が今現在恵まれているからなのかなとも思います。

テクノロジーの話というのは、基本的に恵まれない人のボトムアップを図る形で始まることが多いです。◯◯をできない人あるいは集団にテクノロジーの下駄を履かせて、今までより簡単にそれをできるようにするって話です。

インターネットの力で知識量の乏しい人が検索すれば簡単に知識を得られるようになったのと同様に、ビットコインの力で安定した通貨を持たない国の人達がそれを得られるようになるかもしれません。

その時、円という安定した通貨を持ちつつも国際競争力の弱くなった僕達は、通貨の優位性も失うと言うこともできます。

つまり、「なにそれ(技術的に何言っているか)よくわからない。怖い。」でなく「なにそれ(私はそんな悩み)よくわからない。怖い。」という面もあるのではないのかな、と。

世界的な視野で見たときに、「テクノロジーで世界が平等になる」とは、偏差値50以上生活をしている人にとっては、自分のパイが失われるイメージがあるのかもしれません。

社会全体の幸福の話をする時、それが個人の幸福に結びつくかどうかがイメージできることはとても重要です。

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2015年以降のポイント。イーサリアムの登場

本一冊について話すだけでかなり文字数を使ったので、もう少しざくざくスピードを上げていきましょう。

ここまで話をした『デジタル・ゴールド』は主に2008〜2013年までの話です。なのでそこから先、約5年分の歴史がまだあります。

『デジタル・ゴールド』はめちゃめちゃ分厚い本なので、次に紹介する本はイラストも多いめちゃめちゃ薄い本にしておきます。

未来IT図解 これからのブロックチェーンビジネス

未来IT図解 これからのブロックチェーンビジネス

  • 作者: 森川夢佑斗
  • 出版社/メーカー: エムディエヌコーポレーション
  • 発売日: 2018/10/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • この商品を含むブログを見る
 

2013年以降、一番大きな話は「イーサリアム」の登場でしょう。イーサリアムは、ブロックチェーン技術を利用した、ビットコインとは別の暗号通貨です。現在では、ビットコインに次ぐ時価総額を誇ります。

「ビットコインの技術はお金だけでなく、別の分野にも応用できてそれは世界を変えるんだ!」みたいな話を聞くことがあるかもしれませんが、その走りがイーサリアムだと思って差し支えないと思います。

イーサリアムは2013年に考案され、2015年に開始されます。その発端は「ビットコインに強力なスクリプト言語を組み込むべき!」という主張が、ビットコイン開発コミュニティで受け容れられなかったことです。

ビットコインをもっと応用が利くように改良しよう!と提案したけれど、受け入れられなかったから、じゃあ自分達で(根幹技術は同じで汎用性がある暗号通貨を)1から別に作るわって話ですね。

ブロックチェーンは、分散型のデータベースです。ビットコインはそのデータベースにお金の帳簿をつけます。

でも別にやろうと思えば、データベースにはお金以外の情報も書き込めます。それであれば、あらゆる目的のために柔軟に使えるブロックチェーンを設計すれば良いじゃないか!と思うのは当然だったのかもしれません。

ただ2013年時点では、というか今でもビットコインが解決するべき課題は数多くある中で、それを解決するよりも先にさらに機能を増やし、ブロックチェーンの利用量を増やそうとするのは、「非常に面白いアイデアだ。でもまだそれは時期尚早だね。」(知らないけどたぶんこんなやり取りをしたんだと思う)と反応されるのもまた当然でしょう。

実際、ビットコインもつい最近のアップデートでイーサリアム同様の拡張性を組み込み始めています。

で、ビットコインに拡張性を持たせるとどんな可能性があるのか、について書かれているのが本書です。

日本の若いブロックチェーン系ベンチャー代表が書かれている本で、薄くて図解も多い、とてもわかりやすい仕上がりになっています。

ただベンチャーという立場の都合、きらびやかな未来を描くことがある種一つの使命なので、それなりにポジショントークがあることを前提とした上で読むことをオススメします。

そしてイーサリアムを表す際によく言われるのは、インターネットがメディアから権力を奪い、ビットコインが政府や金融機関から権力を奪うなら、イーサリアムは企業から権力を奪う、という言葉です。

奪う、というと大げさですが、ビットコインが金融システムを見直すきっかけになるのと同様、他の業界でもブロックチェーン技術でその根幹のシステムを見直すきっかけになる(と良いね)。そのための機能をイーサリアムは持ち合わせているよ、というかんじです。

企業の存在意義を「取引コストを効率化するため」とした時、インターネットでそのコストが下げたからこそ、企業に所属することなく働く人が今増えています。

そのコストをブロックチェーンでさらに下げることが出来るのであれば、企業という仕組みが無くとも回る業界があるのではないか?という考え方です。

そんなイーサリアムはそのコミュニティ内では、ビットコインに拡張性を持たせた第二世代目などと言われますが、すでに第三世代型も登場しています。

その中で、暗号通貨の課題としてよくあげられる、激しい相場変動・使い勝手の悪さ・スケーラビリティ問題・ファイナリティ問題などについても、今こんなアプローチで解決を試みているんだ!という話も並んでいます。

問題があるからビットコインはダメだ!という話も、どんな課題も技術者が挑めば解決できる!という話も、どちらも極端な意見なので、よく相手のポジションを見てその意見を聞いたほうがよいです。

ただ最近、マイナスな意見の方がビットコイン周辺に対して多そうなので、こんな未来の希望あふれる本を読むと、バランスが取れるのではないでしょうか。

ブロックチェーンはインターネットを進化させるのか

さらに、ブロックチェーンによって未来が良くなるとしたら、どんな世界が待っているかについて一番語られているのは、こちらの本です。技術的な解説はなく社会の変化予想をする、ある意味SF小説。

ブロックチェーン・レボリューション ――ビットコインを支える技術はどのようにビジネスと経済、そして世界を変えるのか

ブロックチェーン・レボリューション ――ビットコインを支える技術はどのようにビジネスと経済、そして世界を変えるのか

 

現在のインターネットの限界は、セキュリティの弱さと特定の組織へ情報が独占されることに多くが起因します。本書は、ブロックチェーンはその鎖を解き放ち、こんな輝かしい未来を作るぜ!と語り、その未来を作る上での社会的な障壁や困難さにも冷静に考察する、2016年末までのブロックチェーンに関する総括本です。

IT界隈にいる人からすると、電子国家として有名なエストニアの話などは今さら感がありますが、まだ一般的な話ではないと思うので、この本で一回読んでおくのは良いことかなと思います。

(エストニアの話だけなら、最近出版された『ブロックチェーン、AIで先を行くエストニアで見つけた つまらなくない未来』もオススメ)

簡単な概要だけ説明すると、エストニアは1991年に旧ソ連から独立したのち、超絶IT活用国としてブランディングを進め発展しています。

そこでは簡単な電子納税やネット選挙はもちろん、日本のマイナンバーとは違った僕らの思い描く本来的最強のマイナンバー的な仕組み(すべての役所手続きがカード一枚で完結し、しかも電子マネー決済なんかもそれに紐付いてて超便利!みたいな。)が導入されています。

その技術の土台を支えるのが、ブロックチェーンと同様の仕組みであり、それを応用すれば今や死語となりつつあるIoTだって、当初描いた本当に世界を変えるツールとすることが出来るよね!といった、ぶっ飛び気味な話がガンガン書かれている本です。良い。

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「お金」「価値」とは何か

ビットコイン・ブロックチェーンの話として出てくるのが、ここまで書いた、技術的な話や未来をどう変えるのかというのが一つです。

そして、それとは別のベクトルにあるのが、「お金」「価値」とは何か、という話です。

通貨の価値はどこから生まれ、何に担保されているのか、というのは経済の話を勉強したことのない僕らからすると、とても摩訶不思議なものです。

多くの入門書もビットコインが「通貨」として成り立つのかという問いかけは出しても、わりとうやむやに終わります。

軽くググっても、経済の専門家を名乗る人が「ビットコインは貨幣の3つの機能、価値の尺度・交換の手段・価値の保存、を満たしていないからダメだ。」と言い、それに対して賛成派は「いやいや、その機能をビットコインは満たしているよ。」と反論する、というループした議論をしています。

結局ニュースサイトやブログみたいな低レイヤーの場所では、お互い自分の意見に都合の良い文献を引用しているだけなんだな、というのがわかるだけだったりします。

ただ一応、「需要と供給があるものを価値の元とする」「国家といった『中央』がその価値を担保する」といった辺りが論点なんだな、というのがふんわりとわかってきます。

よくビットコインは「金や銀」を需要と供給を生むモデルとしていて、それをデジタル上で再現し、通貨の発行上限を設けることで価値を生んでいると聞きます。でも実はイーサリアムやその他暗号通貨がそれとは別のモデルを導入しているのが、また話がややこしいところです。

その辺りの話すらまとまっている本があまり見当たらなかったのですが、個人的に一番刺さる解説をしていたのが入門書でなく、技術本だったのがなんとも悲しいところでした。

ブロックチェーンアプリケーション開発の教科書

ブロックチェーンアプリケーション開発の教科書

 

内容の多くは、実際にイーサリアム上でアプリケーション開発をする解説書なのですが、前半後半にビットコイン・ブロックチェーンについての解説も多く盛り込まれており、Amazonレビューでもその部分を評価されている方がいますね。

主要な暗号通貨を以下のように分類していたりするのがわかりやすかったです。

金や銀など、貴金属を模倣するのがビットコイン

  • 発行上限 ○あり
  • 中央コントロール ×なし

塩や米など、必需品を模倣するのがイーサリアム

  • 発行上限 ×なし
  • 中央コントロール ×なし

紙幣といった、法定通貨を模倣するのがリップル

  • 発行上限 ○あり
  • 中央コントロール ○あり

世の中的に、入門書で「ビットコイン以外の暗号通貨もある」って話になった時点で、それはマニアック過ぎて無理です!と編集ストップが入るのもわかります。

でも、ビットコインのコピー版通貨があるんだよーってレベルではない違いがあるため、その辺りもまとまった情報が一般的になると良いなと思いつつ、進化スピードが早い今それを書籍という媒体でやるのは中々に厳しそうです。

また、本書の著者のプロフィールを見ると、DMM社のエヴァンジェリストやテックリードの方々のようで、結局のところ、技術的ベースがある人か、経済学的ベースがある人でないとこんな本来的説明をするのは無理だなと思うのでした。

色々と本を読んでから、あれってなんだったっけと思いググると出てくる仮想通貨ブロガーみたいな人達の記事内容が適当すぎてヤバイ。

中央管理は必要なのか

ビットコイン否定派のざっくりとした意見は、下記のようなものだと思います。たぶん。

「暗号通貨が、需要があるモノをデジタルで模倣したところで、世界中全員は実体の無いものに価値を置かない。

そして何より、国や機関といった中央の信用や価値管理がないものは通貨になり得ない。今は金融危機などの影響で『中央』への信用が弱まりビットコインが台頭したが、それはあくまで一時的なものであり結局中央は必要である。」

ビットコインは価値の元を「金や銀」でデジタルに再現しているって話を先ほどチラッと書きましたが、もう一点出てくるのがこの『中央』の信用や管理という話です。

僕らは、国だとか会社だとか中央ありきのシステムの中でしかほぼ生活していないため、なんとなーく中央がないものは機能しえないと言われると納得する節があります。

でも金融の世界の、そういった『中央』の役割について疑問を投げかけるのがこの本です。

中央銀行が終わる日: ビットコインと通貨の未来 (新潮選書)

中央銀行が終わる日: ビットコインと通貨の未来 (新潮選書)

 

著者の岩村氏は、東大の経済学部卒業の後に日本銀行に勤めたエリートながら、元々P2P型の暗号通貨を支持していた変わり者(?)で、ビットコイン出始めの頃から積極的に意見を出していたことから、ビットコインの開発者なのでは?と疑われていたほどの方です。

ただ基本的に、暗号通貨全般にはずっと期待をしているけれど、ビットコインの仕組みは既存技術を組み合わせただけのものであり、それほどイケてないというメッセージを終始一貫して発しています。

それなのに、経済の専門家もビットコインの可能性を語っているぞ!という微妙な引用のされ方をすることも多いので、一冊か二冊とちゃんとご本人の本を読んだ方が良いでしょう。

本書を斜め読みしただけの、経済の知識が高校生以下の僕が内容について語るのもアレですが、ざっくり書くと以下のような内容だった気がします。

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中央銀行が確立されたのは19世紀半ば。当初は金銀などと紙幣の兌換を保証する機関として生まれた。その後、紙幣と金銀の総量をコントロールするために、金利を導入。それが結果として、景気対策をする役割に変化していった。

ただ、その中央銀行の金融政策は、景気が好循環していないと機能しないのかもしれない。それはまだ歴史上、機能するともしないとも証明されていない。けれど、失われた20年の結果を見ると怪しい。

たとえ金融政策によってデフレ脱却をしようが、格差の広がった現代において、それだけでは社会全体は豊かにならないのかもしれない。

中央銀行による景気対策というのは、19世紀特有の格差が少なく、世界全体が成長していることを前提としたモデルであった可能性がある。

それを解決する新しいモデルを作ることを日銀が怠けているだけならまだ良い。でも、怠けているのではなく、本当に次の一手がない気配がある。

そんな中、ビットコインの仮想空間がその解決となるヒントを秘めているのだ、みたいな話。

ーーーー

通貨が通貨たるには、中央管理が必須であるとする経済側の人が多い中、中央銀行はせいぜい100年に満たない機関であり、その機能は経済成長前提の限定的なものであった、という話は中々にインパクトがあります。

「既存の中央が機能しなくなる=中央が不要である」ではないところに注意は必要ですが、そもそも中央がなぜ誕生し、そこにはどんな機能が備わっているのかをまず把握しなければ、非中央の話を始めることはできません。

非中央は成り立つのか

IT界隈の人達からすると、ビットコインというのはブロックチェーン技術上の一つのアプリに過ぎず、お金がどうなるかも当然大事ではあるけれど、それ以上に「非中央」という概念の方を大きく感じているように思います。(若干主語を大きくしてしまったけれど、少なくとも僕はそう)

それは、リバタリアンや陰謀論者のように、国や企業といった「中央」は、あくどいことをして、国民のお金を搾取しているに違いない!といった意見とはまた異なります。

ただ単に、資本主義といったルールに則った会社運営ゲームをしていれば、GAFAのような振る舞いするのが当然だよなー。でも今後、技術が世の中に与える影響の拡大を考えると、このルールのままなのマズいのでは?というものです。

中央集権の話としてよく出てくるのは、Apple StoreやGoogle Playストアの話です。

彼らアプリストアという中央のおかげで、決済システムや悪意のあるアプリを審査で弾くというインフラが整っていて、僕らは便利に簡単にアプリを使うことができます。

でもアプリ開発会社は、売上の30%がストアを管理する外資に常に徴収されることになります。今後日本でどれだけの良いアプリを生む会社が出てきたとしても。

これがただスマホゲームの費用を払っているうちであれば、別に良いんじゃない?となるかもしれません。

けど仮に、今後人工知能ソフトマーケットみたいなものをAppleやGoogleが作ったとして、生活に関わることはすべてそのAIサービスプラットフォームがカバーし、常にその売上の一部が特定の海外企業に流れ続けるとしたら、日本は結構な技術属国になるなと思わされます。

そうなる前に、国が大手技術企業に規制を入れるはずだ!とか中国のようにブロッキングすれば良い!という説も出てきますが、それはそれで技術サイドからするとイケていない対応だな、と感じるところです。

それよりも、中央という管理者不在でも機能するプラットフォームが存在しうるのであれば、それが理想だよね、というのが「非中央」的な考えです。管理人不在でも成り立つApple Storeがある良いねって話ですね。

中央」でなく「中央」です。

暗号通貨だって、技術的にイケていて、かつ資本力のあり信用できる中央が存在するコインを一番信用できる!と言うのであれば、アップルコイン・Googleコインみたいなものが生まれて、彼らが国家を超えたお金の統率者になるシナリオだってありうるわけです。

それで国内のお金の流通情報がすべて海外に握られるとしたら、それはちょっとなーと。

ただ当然、完全にすべてを非中央集権に!というのは、かなりの理想論者というか原理主義者というかんじで、そんな理想は持ちつつも、検討の結果中央が必要ならそりゃ置くよね、とも思います。

外資IT企業の支配を恐れるといいつつ、高いお給料をもらえて気持ちよく働けるなら、NTTよりも外資企業に勤めるわけですしね。

理想論が過ぎるとは思うけれど、現実を見つつも理想論は大切なわけです。理想を現実にするのが技術ですから。

www.youtube.com

(Apple社が反中央なメッセージを発していた時代の動画)

おわりに。社会基盤としての技術のあり方

忘れがちというか多くの人が知らなそうな話として、ビットコインもイーサリアムも、オープンソースで有志により開発されている、というポイントがあります。

一般にはもしかしたら、ビットコインは株式会社ビットコインみたいな法人があって、所属プログラマーが作ってると無意識に思っている人多いかもしれません。しかし、そうではないのです。

ビットコインやイーサリアムといった暗号通貨の理念に共感した、プログラマー達が集って当然給料などゼロで日々開発が進めています。Googleの一部社員も20%ルール(勤務時間の一部で、本業とは別のプロジェクトに取り組む制度)の中で、ビットコイン周辺の開発に尽力したことが『デジタル・ゴールド』にも収録されています。

組織や国の垣根を越えて、理想のために開発をしているわけです。

似た対象として、あのWikipediaも有志の執筆者達が集まって、巨大なインターネット辞典を作っています。それと同様、多くの暗号通貨もWikipediaのプログラマー版のように作られているわけです。

それをボランティアのように解釈する人も多いかもしれません。でもボランティアは母体が完全に別にあり、その母体はあくまで営利目的なことが多いです。

一方、オープンソースはそれに比べると、自身もその活動を通して母体の一部になっていくものであり、営利よりも世の中の技術的発展を目指すものなので、また違った感覚です。

世界中のサーバーを支えるOSであるLinuxも1990年代からオープンソースで開発された技術であり、本当に世界に必要な技術は中央のしがらみから離れたコミュニティで作る方が自然、みたいな技術の世界は数十年前からすでにあるのです。(他のOSSとビットコインを単純に同列に扱うのはいささか強引ではありますが。)

そんな領域の技術に対して、便利かどうかの話をするのならともかく、儲かる儲からないの話しかしないのは不思議だなーと思うのでした。

それよりも、みんなで未来技術の話をしていこう。ということで、もし気になる本があれば、年末年始の暇な時間にでもぜひ。