素敵なロゴ制作のため発注者がやること。デザイナーとのやり取りのコツ
先日完成したうちのロゴのお話です。
今回は自分のロゴということで、通常のロゴ制作よりさらに気合い入れて作成したので、その工程を保存しておきます。
ロゴは自分で制作したわけでなく、馴染みの敏腕デザイナーさんにお願いをしました。で、常々感じていたのですが、ロゴ制作ってデザイナー選びも大切ですが、それと同じぐらい発注者の対応も大切なのですよね。デザイナーと発注者の協調調和です。
通常ロゴ制作というと、何案か上がってくる→そこから一案選ぶ→ブラッシュアップする という工程が多いですが、割とあるのがこの工程の中でロゴがダサくなっていくという現象です。
デザイナーさんは決して案の中で「これが推しです!」と言うことはありません。ベストを選ぶのは発注者ですから。でもその発注者が、案の中で一番微妙なものを選んで、それをさらに微妙にする指示を入れてくることが多々あるのです。
もちろん格好良ければ良いわけでなく、その企業なり団体の意思が一番伝えられることが大切です。ただダサいし周りに意思も伝わらないロゴがなぜか出来上がっちゃうことあるので、そこは発注者として自分も作り手の一人であるという意識が必要です。
今回、その意識を持ち努力してみた結果、いつもとは違った工程になったのでそれをまとめていきます。
1.材料集め
この辺りは普通の工程ですが、まずはデザイナーさんに渡す資料作りです。ロゴの仕上がりはデザイナー次第。でもそれと同じぐらい自分が集める素材が重要です。最初の打ち合わせ前にできる限る資料を作っておきます。
よくプログラマーを「魔法使い」と言うことがありますが、デザイナーもまた魔法使いです。そうなるとロゴは魔具になりますが(笑)強い装備を作るためには良い素材を集めるのがRPGよろしく定番のルールですね。
素材集めには色々と方法があります。
- 社名の由来やそこから連想されるもの
- 現在の事業内容や今後の方針。伝えたいメッセージ
- 尊敬する企業や取引先の名刺などから参考になるロゴ。
- 街中をフィールドワークして見つけるロゴや看板、雰囲気・色使い。
- 好きな美術や映画
- 自分が普段好んで身につけるもの
などなど、直接ロゴにつながるものでなくとも、自分が好きなものや自分ルーツにつながるものはすべて素材になります。
これらを打ち合わせ前にマインドマップでもなんでも良いのでまとめておけると良いですね。
ポイントとしては今この瞬間だけを見るより、「過去」と「未来」を素材として出しておくことです。
「今この瞬間」というのは現在の事業内容だったり組織規模だったり、今自分はこういうことをやっています、という部分ですね。もちろん伝えるべき情報ですが、それ以上に過去・未来の情報量が必要です。
「過去」は自分の幼少期からのルーツ。その会社ないし組織を作った根源となる動機が伝わると良いです。幼稚園や小学校の時に何が好きだったかみたい話からでも広げていけるかもしれません。
「未来」は背伸びをした先にいる自分。ここは今回、僕が最初意識できていなかったポイントなのですが、過去と現在からだけ素材を集めると今の自分っぽいロゴが仕上がってくるのですよね。
それを見た時に何が足りない感をすごく感じたのですが、それが「未来」でした。自分が今後どうありたいか、です。単純にその組織が目指す未来などをまとめるのも良いですが、普段より少し背伸びをした場所にフィールドワークにいくと何かイメージが湧くかもしれません。
普段買っているブランドよりワンランク上のブランドの服や靴を見に行ったり、普段より良い土地の高いお店でご飯を食べてみたり(笑)
それが何の素材になるんだよ、と思うところですが、普段より良い場所にいった時の気持ちはもちろん、見かけたお店のロゴだったり模様だったりがヒントになったりするものです。
僕の場合は、ロゴのことを考えながら、ふと日本橋で映画「君の名は。」を見た時「あ、コードリンクの"コード"ってプログラミングだけのイメージでなく、"紐"ってイメージにもなるな。」と考えを広げた後に街中をうろうろしていたら偶然見つけたこの暖簾の紋が一番イメージに近い!なんて出会いがありました。
普段だったら新宿辺りで映画を見ているのですが、あえてそうじゃない土地を歩いたからこそのヒントでした。
2.デザイン案から広げていく
最初の話でロゴは最初のデザイン案から絞っていく、という話をしましたが今回一番違ったのがこの工程です。
下の図が実際にうちのロゴが出来るまでの流れなのですが、毎度全然変わってるといますね。ただ毎度1からやり直しているわけでなく、奥底にあるものは一緒っていうのは感じ取ってもらえるのではないでしょうか。
普通のロゴ制作は狭めていく流れですが、今回は広げていく流れでの制作となりました。それでは、どんな流れで広げていったかを解説していきます。
まずなぜ広げていったかというと、都度足りなさを感じたからで、そこに必要なエネルギーを加えていったからです。
そしてその足りなさというのは、デザイナーさんが表現できていない要素というより、こちらが伝えきれてない要素があったと言えます。
ではその足りない要素をどうすれば言語化して伝えられるかが、これからの話となります。
まずは自分の直感で判断
ともあれ最初のロゴ案が上がってきたら、まずは自分の直感で判断です。何となくでokなので、自分がどのロゴが好きでそれはなぜなのか。別のロゴはなぜ違うのか、というイメージを持っておきます。
画面上だけで見るのと、印刷して見るのとではイメージが違うので、紙で見るのも良いでしょう。紙ならそのままイメージしたものを言葉にできますし。僕の紙もこれぐらい文字で埋め尽くされました。
ただいきなりこんなに書いたわけでなく、最初は数行程度だけ書いたのが、寝て起きて改めて感じたものや、この後の工程で書き足したりしていった結果です。
数日間、ディスプレイの横や自宅のテーブルの上に印刷した紙を置いておくと、自然に目に入って自然と日常の中で考えやすくなりますね。
周りの人の意見を集める
自分が毎日考えるのと平行して、周りの人にも意見を求めましょう。一番大事なことです。
職場の人だけだと偏るでしょうし、家族や友達と食事でもしてる時に気軽なかんじで聞くのも良いです。
聞くコツとしては「俺はコレが良いと思うんだけど〜」などと自分の意見を事前に言わないことです。まずは純粋な相手の意見を聞きましょう。
そして、なぜそれを選んだのかをヒアリングしていきましょう。同じロゴを選んだ人でも、違ったポイントに良さを感じているかもしれません。違うロゴを選んだ人は、自分が感じた良さを逆に悪いと思ったかもしれません。
ちなみに僕は、第一案・第二案共に自分が良いと思ったロゴを良いといってくれる人が少ない少数派でした(笑)
なので、自分が好きな方のロゴがダメだと思う理由や、別のロゴを良いと思う理由を多く聞くことができました。
周りの意見を良い意味で無視し、抽象的なイメージに変えていく
反対意見はとても貴重です。ただ今回は、あくまで最初に自分が直感で良いと思うロゴをベースに、ロゴの変更依頼点をまとめていきました。
ここはだいぶ難しいポイントだと思います。
自分と反対意見が多いからといってそれに流されるのもダメですが、反対意見を「お前はわかってない」とばかりに切り捨てるのもダメです。
主体性を持った上で、必要な意見だけを取り入れる必要があります。では「必要な意見」とは何かと言った時、それは聞いた意見の言葉そのものには宿っておらず、その裏に隠れています。
意見そのものじゃなくて、なぜその意見を持ったのかという"背景"が重要ということです。例えばロゴ案に対してよく言われる意見に「色が暗い」「力が弱い」みたいな言葉があります。
それを言われたからといってデザイナーさんに「色をもっと明るくしてください。」「もっとパワーあるかんじにお願いします。」というだけの発注をかけるのでのはダサいと思っています。(ついそう言っちゃうことも多いんですけど。)
なぜそのロゴが暗く感じるのかは、必ずしも色の明度だけが理由ではありません。例えば、下の図は同じ色ですが感じる明るさは違うかと思います。
同様に明るさ暗さだけの話だけでなく、他に言われた意見も、同様に目に見えるポイントだけで原因ではなく、全体的な雰囲気から醸し出されているということです。
それであるとすると、目につくポイントの変更依頼をすることが重要ではなく、どんな雰囲気であって欲しいかを伝えることが重要になってきます。そこで求められるのが集めた意見を"抽象化"していくことです。
具体的に今回のロゴ制作にあたり、どんな抽象化をしたかをまとめていきます。
第1案 今の自分のイメージ。
僕がベースとしたロゴはこちらでした。もう一方のロゴを選んだ人達の意見は「これだと研究所っぽい。」「もっと線を太くしたり波を強くした方が良いと思う。」「もう一方のロゴの方がパワーを感じる。」といったところでした。
それら意見や、同じロゴを選んだ人達の意見を総合して感じたことはこのロゴは「良くも悪くも今の自分を表しているのだ。」ということです。
この抽象化に正解はなく、「仮にそのロゴを何かに例えるとしたら何か。」という遊びのようなものです。
そうすると自然とそのロゴに何が足らないのかが見えてきます。抽象化の結果、このロゴには「過去」「現在」の情報は入っているけど、「未来」において自分がどうありたいのか、というイメージをデザイナーさんに伝えきれていなかったのだと感じました。
そして、その未来像というのは、もう一方のロゴにある円の形のようなイメージとはやはり違うな、とも思い、その辺りの考えや情報を伝え変更依頼としたのです。
ちなみに変更依頼では、極力色や形に対する直接的な指示はしていません。イメージをできるだけ具体的に伝えて、そのイメージっぽくしてもらいたい、という言い方をしています。
ノンデザイナーの人が頭の中で作った理想の形なんていうのは、実際に形になると得てして大したことがないですし、何よりイメージだけで伝えた結果自分の想像とは全く違ったものが上がってくるのが楽しいんですよね。デザイナーさんマジ魔法使い。
第2案 AIのイメージと重ねた例
次の案の中では僕はこれをベースとして選びました。他にこれを良いと言った人はいなかったかもしれません。笑
僕の中では、自分の持つ強みが発展し結晶化したようなイメージでいたのですが、「色が暗い」「冷たい・排他的かんじがする」みたいな意見が多かったように記憶しています。
そんな意見を自分の中で噛み締めた際に出てきたイメージは「世の中の人工知能に対するネガティブなイメージみたいだな」というものでした。
そのイメージを元に、テクノロジーを世に還元するような父性的なエネルギーを加えた方が良いのであろう、といった考えにつながり、それを変更依頼の軸としたのです。
ロゴ作りを経て、自己のイメージを固めていく
以上が今回のロゴ作りの大枠の経緯となります。一般的にロゴ作りというと、すでに固まったイメージを形に起こすもの、というイメージが強いかもしれませんが、今回はロゴ作りの中で逆に自分の中の指針を固めていくことができました。
飲食店のロゴなどですでにがっちりイメージが決まっている際にはクラウドソーシングのコンペ形式で案を集めるのも良いですが、自身の中で今後の方針についてまだ言語化しきれていない際は今回のような製作方法も一つおすすめです。
ですが、都度案が上がってからのフィードバックにも時間がかかりますし、毎度新しくロゴを作っていただくようなものなので、デザイナーさんにも負担をかけます。
その辺りはまずベースとしてお互いの信頼関係あってのもの。時間をかけるべき点以外は極力先回りで情報を送るなど、気遣いをお忘れなく。
自分はデザインをわかってないと自覚する
ここまで振り返ってみて重要な点を2点に集約するとしたらこの2つになります。これが発注者・ディレクターに取って重要なことです。
- 自分がデザインに詳しくないと自覚すること
- それでも主体性は持つこと
先ほどの「色をもっと明るくしてください。」のような発言だったり、周りの人の意見を聞かなかったりというのは、自分が少なからずデザインに通じてると思ってる勘違いだと思うのですよね。
都度、僕がロゴの製作に関わっていて感じるのが、自分はデザインをわかっていないのだな、ということです。日頃web製作をしていて、それこそ自分でもPhotoshopやIllustratorなりに触れていると勘違いしてしまうのですが、本来デザインはそんな簡単なものではありません。
最近ではwebサイト製作ツールや、画像加工アプリなど、それっぽくデザインに触れた気になってしまうものが増え、勘違いする機会はますます増えてくるでしょう。
そんな中ロゴ製作はそんなツール頼りでは作れない、デザイン純度の高い仕事です。ですので、ここで改めてデザイナーへのリスペクトを思い出して取り組むべきお仕事と言えるでしょう。
リスペクトと主体性、その2点を意識し素敵なロゴ製作になりますことを。
最後に、今回素敵なロゴを制作していただきましたよあけデザイン様のサイトはこちらです。