コードノート

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よくわからないとわかった人工知能セミナーナイト

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こちらの出版記念イベントに参加させていただいたので、その内容をメモがてら記事にしてみます。さっそくよくわからない!と評判が来ているらしい(笑)本書ですが、今回のセミナーの内容をお届けする中で別の目線を与えられれば幸いです。

peatix.com

第一部:AI教育論

第一部は著者である清水さん単独のお話。AI教育論といったところでしょうか。

まずAI、すなわち人工知能の「知能」とはなんなのでしょうか。それは本書の中にも解説があることですが、「知性=intelligence」その意味は「知識(knowledge)と技能(skill)を獲得(aquire)し、適用(apply)する」こと。それすなわち知性となります。 

いまのPCでもある部分では知性を得ることができていました。Google検索も知識を獲得し、それを活用するするという意味ではAIと言えるかもしれません。ただ今そのような限られた範疇だけでなく、その範囲が拡張してきているため昨今またAI業界が盛り上がってきているようです(第三次ブーム)。その大きな特徴は、認識スキルの急激な伸びです。 

具体的には、深層学習という分野の中で、画像を認識するロジックをAI自身が作り、いままで人間が頑張って作ってきた画像認識アルゴリズムの精度(60%ぐらい)を10%以上一気に超えてきたというのです。

ではAIになぜそれができるのか。それはAIに個性があるから。 

個性、というと大げさなのかもしれませんが、AIは初期のステータス設定がランダムなため、同じ学習をするにしてもその学習結果が一人一人異なるのです。そんなAI君達が何千何万人と一気に学習を進め、認識の精度を上げていく、と流れです。

そんなAI君達の中で優秀なテスト結果を出す個体の特徴というのは「良い間違いを重ねたAI」。AIに取って正解というのは=間違いではないものを知る、ということなのです。

だから学習中偏った正解ばかり見てしまうと、いざ本番にちょっと違った問題を出された時に間違えてしまうとのこと。

まるで人間のようですね。同じ授業受けてもみんなテスト結果は違うし、真面目に黒板のノート取ってるんだけど応用問題になると全然わからない子がいる、みたいな。なによりAIは「間違う」ことができるから高い知性を得ることができるということ自体がすでに人間的です。

他にも人工知能の学習テクニックがいくつもあるのですが、どれも人間的なのがとても印象的でした。

蒸留

蒸留というAIの学習方法があり、それはざっくりいうと「良いAIを先生にすると、生徒のAIはもっと賢くなる」ということ。

生徒AIは、まず先生AIの答えをそのまままずは何も考えず、完コピしていく。そしてその後に学習をしていくと先生AIが3ヶ月かけて学んだことを、生徒AIは半日で学ぶことができるというのです。

人間でいうと、守破離みたいなかんじでしょうか。

生成敵対的学習

生成敵対的学習という手法もあり、これは「相手を騙そうとするAI」と「それに正しく答えようとするAI」を作りそれがお互いにライバルとして対決していくと学習速度が上がるというもの。

先ほどの話でも、如何によい間違いを積み重ねるかが重要、という話がありましたが、その良い間違い、というのをAI自身が作ってしまうということですね。

ブレイクスルー

これは学習方法ではなく学習過程の話なのですが、これもまた面白い話です。

AIの精度というのは、時間に正比例して伸びていくものでは決してなく、しばらく精度が伸び悩む時期が続きある時急に精度がスパーンと跳ね上がる時があるというのです。

もちろん全部のAIがみんなそうなるわけではなく、局所解をぐるぐる回るだけのやつもが多く、そんな子達は間引いたり別のランダムな値を与えてみたりみたいなことがあって、というお話のようですが。

そしてこれは3日経ってやってブレイクスルーが起きる、みたいな時間単位でもあるようで、それは少し前の今と比べて1/100のマシンスペックだったとしたら300日かかることだったみたいな話になってくるので、そもそものマシンのスペックの重要性をより感じることのできる現象でもあります。

 

そんなこんなで、どれも非常に人間的な学び方である、というのが面白いですね。

では、良いAIを育てるためにはなにが必要か。それは、良い学習データを人間が用意することにあります。すでに画像認識といった分野では、今プログラマーに残っている仕事は、AIに必要な学習データを作ることぐらいという話もありました。すでにプログラマー自身が仕事を奪われているのですね。笑

そして学習データのセット自体をAIがやってくる日というのもいずれやってくるのでしょう。

といったところで、AI教育論のまとめ。AIの教育に必要なものは以下の5つ。

  • 良い教材
  • 良い先生
  • 良いライバル
  • コツはそれぞれ
  • 根気よく待ってブレイクスルーに期待する

AIは技術によって、人間の認知が拡張された未来が楽しみです。 

 

第二部:品川女子学院の漆校長との対談。これからのAIで社会で人間が学ぶべきことは?

そして第二部は、品川女子学院の漆校長と清水さんの対談形式に。

diamond.jp

品川女子学院は、授業にタブレット端末を導入するなど先進的な学習を提供されている中高一貫校。

学校教育とAIというと一見関係なさそうに見えますが、これからの時代いまある仕事の50%は失われる、と言われているこの時代、「今後来るAI社会の中で子供達に何を教えるべきか」というのは教育者達の大きなテーマである、ということです。

対談中、色々な面白いお話がありましたがここでは基本的にこのテーマに話を絞っていきたいと思います。

まず品川先生のお話に出てきたので良い子を育てる4つのしつけ。それは以下の4つ。

  • 嘘をつかない
  • 約束を守る
  • 親切にする
  • 勉強をする

以上が身についていると、大人になった際平均年収が80万強上がるというお話でした。

こういった不変的なものが身についていれば、これから時代が変わっても生き抜くことができるのではないか、という一つの説です。

その話の後に清水さんが言っていたことは、それらのうち特に「勉強をする」のはAIの方が得意だし必ずしもそれだけでは足らない、ということ。昨今の某電通の悲しい事件もありましたが、その4つを身につけている人が現時点ですでに不幸せになるケースが出ているわけです。

それであれば、清水さんとしては

  • 遊ぶ
  • さぼる
  • 嘘をつく

といった「あいつ上手いことやってるよな」と言われるような人間らしいスキルが実際のところ求められているのでは、という話になりました。

凄く悪く言った形ではありますが、うまくいく経営者はこの3つができるわけで、それができないマジメな経営者は会社を畳んでいるわけです。そして今後従業員がどんどんAIになっていくのであれば、確かに今後さらに必要なスキルのようにも思えてきます。

ただここでの問題は、マジメに生きるべきか否かと言った細かい話では当然ありません。これらの話を通して、最終的に「人間にしかできないことは何か。」「今AIに足りないものは何か。」をすり合わせていくと見えてくる正解があるのです。

それはまるで理系らしくない話ですが、心とはなにか。意識とはなにか。という話へと繋がってきます。

本書の中でも出てくる今後のAIの課題として、どうすればAIに「意識」を実装できるかという問題があります。マシンスペックが足らないという基本的課題もありますが、それ以上にそもそもどうすれば意識が実装可能かを考える必要があります。

「記憶する」「考える」程度のことであれば今のAIでも可能ですが、「感じる」「表現する」というエモーショナルな能力に関しては「意識」という感覚が求められます。それがないとAIはただのおもちゃですし、それがない人間はクリエイティビティが発揮できません。

では「意識」とは何か。そこでキーとなるのが学校です。漆先生が今回対談者だったからというわけではないですが(笑) 学校というのは、ただ覚えたりテストを解くための施設ではありません。その学校生活の中で得られる経験こそが、自分の意識を育てていく過程になります。

人間で言えば、社会で上手くやっていく能力、と言われるものは意識と紐付いているとも言えます。意識が育っていれば、自分がどうあるべきかという問いに自然と答えられるわけですよね。

人間は今後よりたくさん良い経験を積むべきだし、AIは経験するという概念を強く持つべきである、なんて単純に言葉にしてしまうと質問を煙に巻いたようにも見えてしまいますが、結局それしか無いんですよね。

人もAIも、自分の人生を謳歌することで今後の楽しい社会が拓けるということです。

そんな抽象的な話になってくるので、具体的に今後どうすれば良いかと聞かれると、いざそうなってみないとわからないということ。笑

ただ、現場の最前線にいる人もわからないんだと知ることがまず重要なのでしょう。

そしてまず最初にそれを体感として身につけるのは、デジタルネイティブな世代でも無く、次のAIネイティブな世代の子達です。

僕らはその世代でないので、わからなくて当然、まずはそう受け入れことが重要なのです。

 

こんな面白AI話をより色々な目線から考えることができる本書。ぜひどーぞ。

よくわかる人工知能 最先端の人だけが知っているディープラーニングのひみつ
 

 

また、少し前まで生放送のタイムシフトもあったのですが、公開期間が終了してしまったようなので、対談内容が編集掲載されているこちらの記事もどうぞ。

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